KNEE JOINT PAIN
/GONARTHROSIS
INTRODUCTION
はじめに
わが国が世界トップレベルの長寿国となり久しいですが、
内科的な多くの疾患が数十年前よりも格段に克服されつつある現在では、
ますます健康寿命の大切さが望まれます。
つまり、年齢が高齢域になっても一人で何でもできる、
人の支援や介護を必要としないで生活ができることが何よりも幸せなシニアライフです。
われわれの整形外科クリニックでも、関節の痛み無く歩ける、
散歩や買い物までの坂や階段を、気にせずに出掛けられるといった
皆様の生活の質の向上を願うニーズにより多く応えていくことを目指しています。


意外に多いひざ関節痛・変形性膝関節症
平成21年に東京大学大学院医学系研究科(吉村典子特任教授ら)の大規模疫学調査で、さまざまな関節症の有病率に関して驚くべき数字が発表されました。この調査結果では、変形性膝関節症を患う人は全国で推計2500万人、国民(全年齢層)の5人に1人と言われています(*1)。そして、女性の方が男性よりも約1.5倍多い傾向にあります。現在、変形性膝関節症の治療を受けている患者数は約800万人と推定され、高齢化が進みさらに増加すると考えられています。膝の痛みのある方の半数以上が40代~50歳代で痛みを感じ始めています(*2)。まさに、糖尿病(有病者と予備軍併せて推計2000万人)にも引けを取らないくらいの国民病と言っても過言ではありません。

※東京大学の吉村典子教授らによる研究(平成24年)から

*1参考:吉村ら J Bone Miner Metabol 27, 620-628, 2009
*2参考:科研製薬株式会社・生化学工業株式会社:「ひざの痛みと対処法に関するアンケート調査」より(有効回答=800)
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、経年的な膝関節のクッションとなるべき軟骨の摩耗により、骨同士が直に接して擦れ合うことにより、膝関節の痛みや腫脹が生じる疾患です。

原因は、加齢・体重増加・筋肉の衰えなどが考えられます。関節内で、軟膏の摩耗、半月板の変性や断裂、骨の変性や変形が徐々に生じ、慢性的な関節炎を起こします。ただし、外傷など明らかな原因があって発症する場合は二次性変形性膝関節症と呼ばれ、膝関節内骨折、靱帯損傷、化膿性膝関節炎、痛風などが原因となることがあります。
症状としては、初期は、階段の昇り降りや歩き始めで痛みを感じるようになります。慢性炎症の影響で関節液が過剰になり、関節水腫になることもあります。進行すると、関節変形が強くなり、歩行障害や関節可動域が制限され、日常生活に大きな支障も出てきます。以下に、主な発症サインを挙げています。一つでも当てはまる項目があれば、変形性膝関節症のうたがいがあります。
変形性ひざ関節症チェックリスト
- 立ち上がろうとするとひざが痛む
- 膝を曲げ伸ばしすると音がする
- 階段を昇り降りするのがつらい
- ひざがガクガクすることがある
- 階段を降りてるとき、急にひざの力が抜けることがある
- 左右のひざの形が微妙に異なる
- 正座ができない、できても痛みですぐに脚をくずしてしまう
- ひざが腫れている
- 座って脚を伸ばしてもひざがまっすぐにならない
- 足をそろえてまっすぐ立つと膝と膝の間が握り拳1つ以上開いている
- 長時間歩くとひざが痛くなる
変形性膝関節症の進行度について
初期は、軟骨が表面から擦り減り始めて、レントゲン上も隙間が狭くなり始めます。中期では、内側または外側の半月板も擦り減ってきます。レントゲン上の隙間がほとんど消失してきます。末期では、軟骨や半月板が完全に壊れて、骨自体(軟骨下骨)も変形を来してきます。
上図は進行度に応じた関節内の状態を示しており、下図はK-L(Kellgren-Lawrence)分類というX線(レントゲン)の所見を元にした進行度を示しています。グレード0が正常膝関節で、グレードが上がるにつれて重症度が増します。
変形性ひざ関節症の進行度
グレード0
大腿骨と脛骨の隙間は正常で、骨の先端部分にも骨棘などの変化は見られず、関節軟骨はすり減っていないと考えられる
グレード1
大腿骨と脛骨の隙間はグレード0とほとんど変わらないがわずかに骨棘の形状が疑われる
グレード2
内側の大腿骨と脛骨の隙間がやや狭くなり、骨棘の形成が進んで大きくなっている
グレード3
内側の大腿骨と脛骨の隙間がかなり狭くなっており、関節軟骨の摩耗が進行していると考えられる
グレード4
内側の大腿骨と脛骨が直接触れ合っていることから、関節軟骨の消失が確認できる。
ひざ関節の変形も進行している。
変形性膝関節症のX線による重症度分類 KL(Kellgren-Lawrence)分類

保険診療範囲内の治療法
01.運動療法
筋力トレーニング、関節可動域訓練などを定期的に行います
02.物理療法
温熱療法や冷療法を行います
03.装具療法
患部の寸法を合わせたサポートを用意して日常生活内で使用してもらいます
04.消炎鎮痛薬治療
いわゆる痛み止めの処方で、飲み薬・貼り薬・スプレー・塗り薬などさまざまな服薬方法があります。代表的な薬が、ロキソニン®やセレコックス®、モーラステープ®、ボルタレンゲル®などです。
注意点:あくまでも痛みに対する対処法であり、対症療法の域を出ません。飲み薬は、少なからずアレルギーや胃腸を痛める可能性があります。貼り薬や塗り薬も、頻回使用していると皮膚のかぶれを生じる恐れがあります。
05.ヒアルロン酸の関節腔内注射
わが国で消炎鎮痛薬と並んで多く行われているのがヒアルロン酸注射療法です。膝関節腔内の関節液と類似した粘稠性のある液体を潤滑油のように補充することで、関節腔内の軟骨の擦り減りを低減します。定期的な注入が必要です。
注意点:痛みは軽減できても、軟骨の修復作用まではありません。炎症反応自体が治まることはほとんどなく、症状の進行を止めることは期待できません。
これらの保存的治療法でも症状が緩和せず、病状進行をみとめたz時にわれわれ整形外科医が提案するのが、手術治療です。
06.手術治療
病状が進んだ症例において、長期成績が存在する標準的治療法は人工膝関節全置換術(TKA: toal knee arthroplasty)または単顆置換術(UKA: unicompartmental knee arhroplasty)です。近年、一部大学病院ではロボット支援人工膝関節全置換術を用いて、人工関節の設置位置や向きを1mm、1度レベルで正確に行ない、さらに従来は切離していた前十字靱帯を温存する手技も始まっています。
また、若い年代の変形性膝関節症において関節のアライメントを保つために、高位脛骨骨切り術(high tibial osteotomy : HTO)が施行されることもあります。骨切り術後に再生医療を行うことも可能です。注意点:手術には、1~2週間の入院期間を要し、術後疼痛も強くあり、術後リハビリも必要です。手術合併症(血栓・塞栓・人工物感染など)の危険があります。人工関節の脱臼・ゆるみ・摩耗などを生じる可能性があります。人工関節の耐用年数は、約15年と言われています。