【第10回】膝前十字靭帯(ACL)損傷

本コラムでは、当クリニックを受診された患者様が経験されたスポーツ外傷や障害について、
その病態や治療、治るまでの期間などについて解説させていただいています。

本コラムも10回を重ねました。
これまで、お読みになっていただいた方々には感謝申し上げます。
ご自身のスポーツ外傷や障害に対する理解の一助になっていただければ、この上ない幸せです。

さて、記念の第10回は、スポーツ外傷の中で過去から現在まで、
整形外科のスポーツ系学会で最も熱く議論されてきたといっても過言ではない
膝前十字靭帯(以下ACL)損傷について語りたいと思います。

ちなみにACLとは、英語のAnterior Cruciate Ligamentの略で
サッカーのAsia Champions Leagueではありません。

はじめに

ACLは膝関節のほぼ中央に存在し、大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯です。
約2,000N(約200㎏)の力で引っ張られると断裂します。

ACLは他のプレーヤーとの接触がなくても、
ジャンプの着地やターンなどの減速動作で損傷する場合があります。

ACL損傷はスポーツ膝損傷の中でも頻度の高い外傷で、
一般人口では1年間に10,000人に約4人が受傷すると見積もられています。

原因となるスポーツとして、以前はスキーでの受傷が非常に多かったのですが、
最近は競技人口の多いサッカー、バスケットボール、テニス、バレーボール、体操競技など様々なスポーツで受傷されています。

当クリニックでは最近、フットサルで受傷された36歳の男性の患者さんを経験しました。
フットサルは当コラムの第4回でも紹介した小さなコートで行う、サッカーに極めて似たスポーツです。
フットサルはサッカーよりも手軽にプレーできるので近年競技人口が増えていますが、
Fリーグというプロリーグ(写真1)もあり結構激しいプレーもみられます。

(写真1)Fリーグより

症状と自然経過

発症初期は受傷した膝に痛みが生じます。
多くの場合、切れたACLからの出血が膝関節内にたまり膝が腫れます。

通常、数週間で膝の痛みは引きますが、切れたACLが治ったわけではありません。
ACL損傷を放置してダッシュやターンなどの減速動作を伴うスポーツを継続すると、
再受傷を繰り返し半月板や関節軟骨なども損傷され、最終的に外傷性変形性膝関節症に至ります。

診断

ACL損傷を診断するには、患者さんにベッドに横たわって脱力していただき、
医師が大腿骨と脛骨をもって前後に揺らす検査(ラックマンテスト)や
捻じるように膝を動かす検査(ピボットシフトテスト)などの徒手検査をします。

(写真2)15歳、バスケットボール女子選手の例。膝を横から見たMRI写真。ACL(黒く見える線状構造)の大腿骨部分(青→)と脛骨部分(青→)が赤○部で連続性が途絶えています。
X線検査は骨折の合併を確認するために必要です。
MRI検査は靭帯そのものを描出できるので(写真2)
極めて有用性な検査です(正確性97~98%)。
くわえて、半月板などの合併損傷も診断することが可能です。
  

治療

完全に切れてしまったACLはギプス固定などの保存的治療を行っても、つながらないことが判明しています。筋力トレーニングを中心とした保存的治療を行うと軽度なスポーツなら多くの場合復帰可能ですが、
バスケットボールやサッカーなどのジャンプ、カットの多いスポーツへの復帰を希望する人には手術が必要となります。

手術は多くの場合、関節鏡による靭帯再建術が行われます。
切れたACLは縫合しても正常な強さに戻ることはないことがわかっています(写真3)。

(写真3)過去の自験例 18歳、女子、バスケットボール選手 関節鏡で見た切れたACL。縫合して正常な強さを持つACLにすることは不可能。

したがって、縫合するのではなく患者さん自身の体の他の部位から組織(膝の裏側のハムストリング腱や膝の前側の膝蓋腱を使用する場合が多い)を採ってきて、損傷したACLの部位に移植する手術が行われます。

その際、大腿骨と脛骨にトンネルを掘って、2つのトンネルを貫通するように1本ないし2本の腱を通します(図1,写真4)。

この手術は私が病院勤務時代に人工膝関節置換術についで、数多く執刀または指導した手術です。
約30年前に始めた時は難しい手術でしたが、近年は手術成績も安定し、多くの膝専門医やスポーツ整形外科医が施行しています。

(図1)大腿骨と脛骨の骨トンネルに腱を通してそれぞれの骨に固定します。(日本整形外科学会「症状・病気をしらべる」より引用
(写真4)過去の自験例 18歳、女子、バスケットボール選手。関節鏡視下に2本の腱(ハムストリング腱 青→)で再建した。


術後はリハビリテーションが必要です。
手術法ごとに定められたリハビリプログラムに従って、慎重にリハビリテーションの強度を上げていきます。スポーツ復帰までの期間は、種目にもよりますが、6か月から1年を要します。

予防

これまで述べてきたように、ACL損傷はスポーツを行う人にとっては手術を必要とする大きな怪我なので、近年その予防にも注目が集まっています。

サッカーの分野では、FIFA(国際サッカー連盟)医学委員会が作成した11+というサッカー外傷・障害予防のウォームアッププログラムが有名ですが(写真5,6)、我が国でもいろいろなACL損傷予防プログラムが考えられ、その講習会なども行われています。詳細は、「ACL損傷 予防」で検索してみてください。

(写真5)FIFAのサッカー外傷予防プログラム11+

(写真6)11+の詳しい内容については、FIFA 11+で検索してください。